癒しの剣道

まえがき

  私の剣道は楽しくやることを念頭に置き、打ったときに
気持ちの良い面、気持ちの良い小手、気持ちの良い胴、気持ちの良い突、を目指しています。
従って基本の稽古も通常の稽古とは少し違っています。

  簡単に言えば癒しの剣道なのです。
  50歳を過ぎた頃からか体力にも自信が無くなり、肩は痛いし腕は伸ばすと痛いし、「切り返し」をすれば
背中の筋が痛くなる、早素振りをするとふくらはぎが肉離れを起す等いろんな障害が発生する。
そんな中から現在の私の剣道が生まれたような気がする。

  鏡の前で基本を30分〜40分やり面を付けて基本打ち30分位、相手がいなければそれもなし
これを通常の稽古以外の日にやってる。やっているといっても週一だけど。

  素振りの何百本も無いし、打ち込みも懸かり稽古も切り返しも無し。ただ無理のない力の抜けた剣道、
癒しの剣道と言うことです。
  このページではこんな私の剣道の攻め方の一部を紹介します。

その 1

  まず攻め方から書いていきますが、現在の面の打ち方を考察してください。
一足一刀の間合いで右足から攻めて左足を引き付けて接ぎ足で打っていませんか?
打つ瞬間いきなり右足と手元が同時に打ち始めていませんか?
通常はほとんどの方がこうして打ちます。これでは相手にドンピシャタイミングを合わせられ
返し業でやられます。

  まず基本を思い出してください。一足一刀の間合いは右足を一歩踏み込めば打てる間合い
だと教えられますよね。
この間合いから接ぎ足をしなくても面は打てるのです。
  ここでもう少し考えてください。
一足一刀の間から右足だけで打つと遠すぎて
年令の行った我々では面に届かないです。じゃあどうやって打つんだと思うでしょう。
  八段の先生方はあの年令で面をいとも簡単に打っています。
これは右足の攻めで相手を引き出して頭半分くらい相手が出てきたところで
打っているのです。相手が打たれに来ているのです。

  私が七段に受かったときも右足の攻め(もちろん腰からの攻め)で出てくる相手に
小手や面で合格することができましたが、現在は、あのときよりももっと上手に
攻められるようになりました。
  いままでに会得したものを大切にしたいと思っています。

  そしてこの攻めをここに伝授します。これは自分にも言い聞かせる為にもと思って書いています。
もう合格の域におられるかも知れませんが、へ〜と思いながら読んでください。

  私の今の剣道は剣先が交わる間合いから面を打っています。近い場合もあります。
もちろん一歩です。
  ちょっと長くなりましたがその攻め入りの方法を書きますので
良かったらお付き合い願います。

その2

  まず構えですが、左足右足の立ち姿で7対3ぐらいで左足(後ろ足)に重心をかけてください。
右足はいつでも動かせるようにしておいてください。
ここのところの右足は攻めるときと応じる時に今後大切な働きをするので覚えておいてください。
上半身、特に肩から腕は力を完全に抜いてください。
ここでの注意は構えたときに手首を入れ、絞りすぎるとどうしても力が入ってしまいます。
竹刀を横から持つ程度でよいと思います。

  力が入っていると瞬時の動きに対応できません。又、相手にこちらの動きを悟られます。
柳に風で外力に逆らわない自然の構えを身につけてください。
ここの処の心持は、竹刀をはじかれても力に逆らわず自然に元に戻るような心持です。
このとき相手は「こいつ出来るな」と思う瞬間です。

  立ち姿は前傾にならないようにしてください。
  左足のひかがみ(膝の後ろ)は一般的には伸ばすことといわれますが、伸ばしすぎはぎこちない動きに
なってしまうので軽く伸ばす程度にし弾力を持たせてください。

  左の拳はへその下になる位になるべく下に位置してください。
  剣先は通常の高さでよいと思います。
  要は上半身の力を抜くということです。これがなかなか難しいです。
  左のかかとは軽く浮いているという感じです。
上がりすぎると前足に体重が掛かるので注意してください。

その3

  それではいよいよ攻めに入ります。
右足を滑らせて前に攻めて行きますが、ここの攻めは重心を前に移動させるわけですが、
このとき、手元は絶対に上げないでください。
手元を上げると相手に動作を読まれ逆に乗られます。
手元を上げるのは相手が打ち始めようとするところ、こちらが打突する瞬間です。
  
  それでは、右足を滑らせ攻め込むところをもう少し詳しく説明します。
構えの状態から右足の膝の力を抜くとガクッと前に倒れてしまいますね、ここで倒れないように
左足で軽く重心を押してやります。
そうすると倒れないで重心は床と平行に前進します。
  ここで前進する速度ですが、新幹線が動き出すのを想像してください。
動き出すのを感じない位に静かにスタートします。
  この動きで右足を滑らしながら攻め込みます。
右足の攻め込む距離は相手や技で違ってきます。
この攻めで相手は、初動が静かで手元は上がっていないことで最初は気がつかず近づいたときに
「アッ」とあわてて打突動作を起こしますその時打とうとして頭が半分くらい前に来ます。
右足をさらに前進させると同時に左足を蹴り打突します。
  こちらは相手より1〜半拍子早く動作を起こしているので居ついたところや出頭や相面を
制することができます。

  打つ瞬間は右足を高く上げないほうが距離は伸びます。
右足を高く上げたほうが遠くに飛べるような気がしますが、上がった足は着地のときにかなり手前に
戻って着地します。これは実験で判明しました。
  理想は、右膝を前に出し低いほうが距離が伸びます。
足を出すのではなく膝を出すほうが腰が入るようです。

  左足は強く蹴るのではなく伸びた右足に重心が引っ張られるのをちょっと押してやるという感じです。
要は打つ瞬間に飛んで打つのではなく右足で体重を引っ張るという感じです。
この打ちだとアキレスけんに負担が掛かりません理想のうちだと思っています。
スーッドンという感じです。

  後、大切なことは心です。打ちに行こうと攻め込むとやられます。
相手に打ってくださいと面を差し出す気持ちが大切です。
  これが一番難しいかもしれません、打つ前に死んでください。
死んだら怖くありません。たかが竹の棒で分厚い防具の上から打たれるだけです。
  後は自分を信じてください無意識の本能が自分の身を守るはずです。

  この打ちを覚えた頃から、左足の足裏が割れなくなりました。
今ではきれいで豆もない足裏になってしまいました。
これが良いのか悪いのかは分かりませんが、体重移動がスムーズに行われているからだと思っています。

その 4

  攻めの部分で補足します。
右足を滑らして攻め込むときの剣先の高さですが、私は
胸の高さと水月の高さそして相手の竹刀の下に自分の竹刀を入れ相手のつばの下部分を攻めたりします。
相手により効果が違います。確かめてください。

  すべて攻めの途中では手元を上げないで下さい。
右足を滑らして足が床に着地しそうになったところでトンと面に飛んでください。
最初は手元をあげないで右足を差し出すのは難しいけど必ずできます。
後、私の究極の攻めがあります。手元を緩め剣先を相手の前面からはずして攻め込みます。
もちろん面を打ってくださいと差し出します。
これにはほとんどの方が面を打ってきます。しかし私も剣先をはずしているので面が遅れます。
その時は抜き胴や返し胴で対応します。

  七段は相手を引き出せる力が必要です。
最近の七段の合格率は9%です。私が受かった6年前は22%です。
七段は一般人の最高段位に定着したみたいです。

その 5

  攻めから打突のところの、手の内の打突の方法を書きます。
  攻めの部分で相手の打つきざしを捕らえトンと打つのですが、左拳を前に出し相手の鼻面を
欠き上げるような感じで打ちます。
  ここで注意することは右手で引き上げないで下さい。
左拳を前に押し出せば竹刀は重心を中心に回転し剣先は上に上がってきます。
上がるだけではなく、かなり自分の方に近づきます。
  ここまでくると相手の面は自分の竹刀の下にあるように感じます。
  ここから右手が竹刀を押し相手の面めがけて剣先が突進していきます。
右手は押し手ともいいます。
ここの右手の働きはただ相手の面に当てに行っているだけですが、
伸ばした左手は同時に引き手に変わります。
引き手といっても左拳が水月当たりまで戻ってくる感じです。
  この両手の作用で剣が切る力を得てとてつもなく鋭く面に打突します。
打突後は身体(腰で)前進し残心となります。

  振りかぶるときの左拳の位置ですが、口元の高さくらいです。
基本でいわれる左拳は額の上までと言いますが、
  大きく振りかぶると2拍子の打ちになり打てません実際に、
高段の先生方をスロービデオで見ても口元くらいにしか上がっていません。
  ただ剣先は自分の頭の上に来ています。
それが大きく振りかぶっているように見せているのだと思います。
  切り落としの技の場合、もう少し左拳が上がっているようです。

  左拳を前に出す操作を覚えると重い竹刀を使えます。
いくら重くても左拳を押し出せば剣先は竹刀の重心を中心に上に上がってきます。
後はさきほどの右手と左手の操作だけです。
  この操作がうまくいくと「手の内が良い」や「冴えた打ち」に繋がります。

その 6

  さて面打ちばかりでは、相手に使われてしまいます。
  ここで七段クラスでは相手を引き出して有効打突がほしいところです。

  
  前述の面打ちで行った右足からの重心移動で相手の手元が上がれば「小手」や「抜き胴」
相手の面に遅れれば「返し胴」です。
  右足からの重心移動の攻めは手元が上がっていないので色んな技へと変化できます。
  今回は「返し胴」の打ち方を書きます。
いろんな打ち方がありますが、使えるようでしたら使ってください。
  私はこの打ち方を会得してから面が怖くなくなりました。
どんな早い面も返してしまいます。あまり使うと相手が面を打たなくなってしまうので困っています。
使うのをほどほどにしておこうと思うくらいです。

  ここでの誘いは色々ありますが一例を挙げると構えた状態で両足を動かさず前後の足の幅内で
重心を前後にゆっくり移動させ相手を誘います。
  面がゆっくり前に出たり戻ったりします。そしてちょっと早く少し大きく前に面を出すと相手は誘われて
面を打ってきます。誘い時の気持ちは、やはり面を差し出す感じです。
  相手が面にきたら面に当たる瞬間に返します。
相手は面を頂いたと思った瞬間にこちらは胴を返します。

  さてその胴を打つ要領ですが、剣道形の七本目に似ています。
  右足を少し右に足を裁くと同時に手元を上げ相手の竹刀を受けます。
受けた瞬間に左足を右斜め前に送り、胴を打ちます。
  抜けるのは歩み足で抜けますがすぐに振り返り残心を取ります。
胴を当てる瞬間は自分の竹刀が相手のどの辺を打っているか見て確認できるくらいの余裕を持ってください。

  左の足の運びですが左足を前に出すと同時に胴を打つのですが、
ゆっくりだと可能ですが足はそんなに速く動けません
ゆっくりの面だと返せますが早い面には対応できません。
  しかし左足を出して打つというイメージが大切なのです。
  実際には早い面を受け、返すときに左足を出そうとした動きはまず左腰が右に回転します。
この腰の回転の時に胴を打ってしまうのです。
当然その後に左足が腰に引っ張られ前に進んできます。
そこはすでに胴を打ち終わり抜ける所です。

  補足ですが最初の誘いはこれでなくてはならないということではありません、攻防の途中で
この返し胴ができると心に余裕ができます。
ただ楽なので、これに甘んじることなく攻めの剣道を忘れないようにしてください。精進を祈ります。

その 7

  さて今回は、抜き胴の打ち方を説明します。
  技の説明は今回で終わりになります。
他にもありますが、私が良いと思った技だけを、長々と書いてきました。

  それでは抜き胴です。これも返し胴と同じで左足で胴を切ります。
攻め入り、と面の差出しは、何回も説明している通りです。
まずグーット右足から攻め込みます。
手元は構えているときと同じ位置です。
ここで相手は間合いに入った私の面を打ちに掛かります。
こちらは右足の次は左足を右前方に出すと同時に胴を抜きます。
右足から左足と流れるように歩み足で抜けながら胴を切ります。スルリと抜くことができます。
やはり胴を切るときに自分の竹刀が相手の胴を捕らえている瞬間をチョットですが見ることができます。
当然左腰が入っているので前につんのめるようなこともありません。

  気持ちの良い胴打ちです。是非マスターしてください。

  以上で説明を終わります。
今までのまとめですが。
  すべてに対して言えることは右足をすべらせるように攻め込む時に手元は絶対に上げないこと。
相手の間合いに攻め込んで兆しが見えたら瞬時に一拍子で打つことです。

  左足の使い方を覚えると剣道の幅が広がります。歩み足の要領はダンスや日本舞踊の要領です。
これが難しい。

  今までの書いたことで私がすごく強くなっていると思っているかも知れませんが大して強くはなっていません
逆に弱くなっているかも知れませんが、楽しい剣道を続けられています。だからいいのだと思っております。

あとがき

 
ずいぶんと長々と書きましたが、読んでいただけてありがとうございます。
感謝いたします。又、機会があったら書いてみようと思います。

 

戻る